2025年の2月に、山口県にある獺祭の本社蔵へ見学に訪れた。最寄りの駅から乗り合いバスに揺られること約30分。山道を抜けた先に、その近代的な本社ビルは忽然と姿を現した。背の高い建物は、伝統的な酒蔵のイメージとはかけ離れている。本社ビル前の小さな川を挟んだ向かいには、直営の店も佇んでいる。現在のような著名な企業になる前から蔵がその土地にあったとのこと。川と山に挟まれた狭いエリアなので、事業が成長によって建物を大きくするとき、縦方向に大きく設計したとのこと。ちなみに、全国の山田錦(酒造米)の三分の一を利用して酒造りをしているとのこと。(それ以外の種類の酒造米を使っていないのは意外だった)また、25年6月より旭酒造という社名を「株式会社 獺祭(英語名:DASSAI Inc.)」に変えるそうだ。(プレスリリース)

獺祭といえば、杜氏の経験や勘に頼るのではなく、徹底したデータ管理による酒造りで知られている。実際、蔵見学で目にしたのは、従来の酒蔵のような重厚な雰囲気ではなく、若いスタッフたちが明るい雰囲気の中で、まるで工場やオフィスのように働いている様子だった。ただ、酒米を蒸すところから、樽で醸造していくところなどには、「工場のような」といっても、水回りがあり、酒や米の香りであふれていて、まぎれもない酒蔵ではある。
意外な発見もあった。酒を貯蔵し、仕上げるタンクは、古い酒蔵であれば木樽が用いられることが多いが、獺祭ではホーロー製のタンクが使われている。衛生管理の面から木樽は難しいとのこと。しかし、このホーロー製のタンクの清掃は、機械任せにはしないという。人が樽の中に入って、人の手で行われる。わずかな傷も、人間が作業した方が見逃さないという考えらしい。
すべてをデータや機械に委ねるのではなく、大事なところで人の目と手を欠かさないということのようだ。
